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独占インタビュー

映画監督:荻上直子「ターニングポイントは自分の中にある」

2017-02-24|女子ツク!編集部女子ツク!編集部

『かもめ食堂』(2006年)、『めがね』(2007年)など、抜群のセンスと独特な世界観でさまざまな女性から熱い支持を得る映画監督:荻上直子。


日本を代表する女性監督のキャリアは日本の大学卒業後に、USC(南カリフォルニア大学)の映画学科に進んだことから始まる。彼女はなぜ映像の道を選んだのだろうか?


「元々大学で写真を学んでいたんですが、徐々に写真よりムービーに興味がわいてきて。だから最初は監督じゃなくて、撮影(カメラマン)を目指していたんです。でも入学したのがスパルタで、脚本から撮影、監督までとにかく映画製作に関わることを全部勉強させられる学校で。まず一番苦手だった脚本が書けるようになって、そしたら監督もやってみたくなって。そのまま今に至ります(笑)」


映画史の授業で日本映画からハリウッドの昔の映画など、様々な映画を見せられた。最初は特に興味がなかったものの、その魅力にハマってからはむさぼるようにあらゆる映画を観た。なかでも90年代当時の映画界で起こったムーブメントには、自身の監督活動の原動力ともなる刺激を受けた。


「ロスで映画を学んでいたとき、ちょうどニューヨークのインディーズ映画が盛んで。ジム・ジャームッシュとか、トッド・ソロンズとか。予算をかけずに、それでいて上質、何よりカッコイイ。“そういう映画を作りたい!”っていう糧にはなっていると思います。今も昔も」


USCを卒業後、帰国。日本で映画製作をスタートし、1年後にはPFF(ぴあフィルムフェスティバル)で音楽賞を受賞。スカラシップ作品の権利を取得した。そして2003年、初の長編映画となる『バーバー吉野』を発表。商業映画デビューともなった当時のことをこう語る。


「とにかく怖かったことしか覚えてない(笑)。プロのカメラマン、プロのスタッフ、役者さん、もう誰と話すのにもいちいち緊張するわけです。この映画をきっかけにその後も商業映画を撮りたいと思っていたのでわざわざベテランさんを集めていただいて、自分で自分の首をしめるという(笑)。当時は無我夢中だったけど、でもやっぱり技術面でも精神面でも大きなステップアップとなりました」


もちろん製作スタッフには男性も多い。“女性監督”ならではの苦労はなかったのだろうか?


「“女性だからキツイ”みたいのは特になかったですね。性別問わず、難しい職業ではあると思うし、性別問わず感じの悪い人はいます。でもそういう相手への対処法も徐々に覚えてきて。必殺:チクり技(笑)。進行に支障をきたすほどの嫌がらせをしてくる人がいる時は、偉い人に言って辞めてもらう。もちろん、ある程度現場を経験してからですよ。最初はイヤな人がいてもひたすら、本当に胃が痛くなるほど我慢してたし。今は我慢しない。これもある意味、年の功ですかね(笑)」

そんな彼女の5年ぶりの最新作『彼らが本気で編むときは、』が公開前から話題になっている。物語はトランスジェンダーのリンコ(生田斗真)と恋人のマキオ(桐谷健太)、孤独な少女トモ、3人の愛に包まれた生活を描く。美しい女装姿話題が話題になっているリンコ役に生田斗真を起用した理由を聞いてみた。


「もう最初から決めてたんです。数年前、生田さんの映画デビュー作『人間失格』を観たときに、“なんて綺麗な青年なんだ!”って衝撃を受けて。リンコは女性の恰好をしたときに美しくなりうる方にお願いしたかった。オファーを受けていただけるかはわからなかったけど、自分の中では“彼しかいない”と思ってました」


彼が演じるリンコを観て驚かされるのは、仕草ひとつひとつの美しさ。それもそのはず。役作りには所作の先生をつけて、しっかりと指導。手、足、など身体のパーツごとにスタッフが動きを監視するという徹底っぷり。待ち時間もスカートを穿いて過ごすという本人の努力もあって、女性よりも女性らしいリンコが誕生した。一方で予想外の問題も発生した。


「生田さんの身体が思っていた以上に男らしくて(笑)。顔が綺麗だから、可愛らしい服を着せたらすぐに女性っぽくなるかと思ってたけど、まず服がパツパツ。鍛えられた胸板や、肩幅、あの立派な身体を隠すのに四苦八苦。髪の毛もエクステ使ってロングにしようと思っていたら、顔の堀りが深すぎるからかケバくなりすぎちゃったり、意外にも見た目の演出に苦労しました」


撮影開始まで試行錯誤を重ねた。そもそもなぜ“トランスジェンダー”という題材を扱おうと思ったのか。


「“トランスジェンダー”はあくまで要素であって、私が描きたかったのは母と子どもの絆なんです。私自身もここ数年で出産し、子どもができた。そういう経験を経たなかで、母と娘、母と息子、養母と娘など、いろんなケースの親子の関係性を撮ってみたかった。母になったからこそ、その関係性を描いてみたいと思ったんです」


今作は良い意味でこれまでの荻上作品とは毛色が異なる。 “癒し系”、“スローライフ”と称されることが多いこれまでの作品に対して、今作では誰しもが抱え、そして逃げられない親子の関係を生々しく描き出している。プレスリリースには「もはや癒してなるものか」という監督自身のコメントもある。


「攻めの姿勢で撮ろうと思いました。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、映画を撮ることは私の人生そのもの。誰かに伝えたいメッセージがあるというよりも、自分と向き合って、その時に一番興味のあることに対して正直にいます。私の場合、作品を作るときのきっかけは“自分の中にあるもの”。ターニングポイントは常に自分の中にあるのかもしれないですね」


人生が移り変わるのと同じように、作る作品も変化していく。映画監督としての第二章の始まりは、人生の第二章の始まりでもある。どう進んでいくのか、どんなムーブメントが生み出されていくのか、その答えは彼女の人生の中にある。

プロフィール[Profile] 荻上直子 [おぎがみなおこ]

1972年2月15日生まれ、千葉県出身。
2003年、長編劇場デビュー作となる『バーバー吉野』でベルリン映画祭児童映画部門特別賞を受賞。2006年に公開した『かもめ食堂』では邦画初のオール・フィンランドロケを敢行し、大ヒットを収める。ほか代表作に、『めがね』(2007年)など。

第67回ベルリン国際映画祭 テディ審査員特別賞受賞
(パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)


映画『彼らが本気で編むときは、』

2月25日(土)全国公開
■脚本・監督:荻上直子 ■出演:生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子 / 桐谷健太 ■上映時間:127分 ■配給:スールキートス

『かもめ食堂』の荻上直子監督、5年ぶりの最新作。トランスジェンダーのリンコと愛を知らない孤独な少女トモ、リンコの恋人でトモの叔父のマキオが織り成すヒューマンドラマ。生田斗真の美しい女性としての姿が公開前から話題に。恋人役に桐谷健太。『かもめ食堂』同様、フードスタイリスト:飯島奈美が担当するリンコの手作り料理にも注目。


<STORY>
11歳の女の子トモは、母親のヒロミ(ミムラ)と2人暮らし。ある日、ヒロミが家を出てしまう。ひとりぼっちになったトモが叔父マキオ(桐谷健太)の家を訪ねるが、そこにはトランスジェンダーの恋人リンコ(生田斗真)がいた。戸惑いつつも心優しいリンコに、徐々に心を開いていくトモだったが……。

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

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