会社の顔であり、経営を引っ張っていく「社長」。しかし、その中には“社長という皮”をかぶっただけ、“社長という特権”をふりかざすだけのトンデモない社長がいるようだ。社長が関わる業務はお金の運用や会社の経営計画など、会社のコアを支えるものが多い。社長クラスでの失敗となれば、当然社員や部署クラスでの失敗よりスケールの大きいものとなりがちだ。会社の顔というより会社の暗い影、有名税ならぬ悪名税となってしまうこともある。そんなトンデモ社長のエピソードを2つ話しておこう。
何時何分何秒社長
一人目は健康食品や雑貨、食品を取り扱う通販会社の社長と副社長。二人の他にスタッフ数名という本当に規模の小さい会社だ。出荷作業などがある日は猫の手も借りたいほど忙しくなり、社長も社員も総出。しかし、皆が業務に追われる中、気づくと何やら険悪な雰囲気になっている社長と副社長。二人とも作業の手をとめ、お互いの手元をにらめっこしている。「そのやり方はちがう!」「これはこうするっていったはず!」と飛び交う怒号。どうやらお互いのやり方が気に食わないらしい。一方、スタッフは見向きもせずに“まーたはじまった…”という顔で、黙々と作業を続行。さらに、さわらぬ神に祟りなしといったようすで、社長と副社長のまわりからサーッとスタッフが遠ざかっていく。
そのうち「何時何分何秒に私がそんなことを言ったんだ!?」「ハァ!?だれがそんなこと答えなきゃいけないの!」と、作業はずーっと中断したまま喧嘩はエスカレート。頭に血が上っているとはいえ、どう聞いてもセリフが小学生レベルでさすがにスタッフもあきれ顔。集荷に来た宅配便のドライバーも、扉を開けて「アッ…」と察したあと、表情ひとつ変えずに次々と荷物にバーコードを通していく。その会社では週に数回はある“おなじみの光景”らしく、しまいには両者とも作業をほっぽり出して職場から出ていってしまうというのだから驚きだ。「この先、何か大きな壁にぶち当たったとき、大丈夫だろうか?いや、きっとダメだ…」と、不安そうに語るリーダースタッフの顔が忘れられない。
公私混同社長
二人目はマンションの一室に小さな事務所を構える広告制作プロダクションの社長。社員はコピーライター2名と経理職の女性のみ。しかも経理職の女性は社長の愛人だそうで、社長は毎日帰りたい時間にウキウキとその女性と帰ってしまう。残ったコピーライターたちは社長がやっていない仕事を引き受けて徹夜続き。土日もなかったという。その忙殺続きの日曜日、明け方に決まって鳴るのが事務所の電話である。しばらく鳴り続けたあと自動留守電に切り替わり、スピーカーから事務所に響きわたる「おとーさん!いつ帰ってくるの!?」という無邪気な子どもの声。それを黙って消去するたびに、彼らは心の奥で何かをつぶしていたという。仕事の合間に家庭の闇を垣間見なければならない場所で働き続けるのは一体どんな気持ちだったのだろう。
そんなコピーライターたちも、たまには早い時間で家路につくこともあったようだ。「今日は早く帰れた…」とホッとしたのもつかの間、ビルの1階で忘れ物に気づいたひとりが事務所へ戻ったときのこと。インターホンを鳴らすと、チェーンのかかった扉のすき間からのぞく怒り気味な社長の顔。「そこで待て」と指示を出され、乱暴に閉まる扉。中から慌てたように聞こえるガタガタという物音。一抹の不安をいただきつつも、しばらく待っていると何事もなかったかのように招き入れられた…が、普段使わないはずのバスルームに明らかに誰かがいる(きっと愛人)。彼は「気づいたら負けだ」と、いつものスルースキルで忘れ物を取ってさっさと退散。事なきを得たそうだが、明らかに公私混同が過ぎているだろう。社長はその後、取引先に連れていかれた外国人パブにハマって出社しなくなり、愛人とも破局。数か月後、それでも黙々と働くコピーライターたちのもとへ元愛人である経理が訪れ、「会社が倒産する」と告げたそうだ。当時、たしかに給与の振り込みが遅延しており、会社名義のクレジットカードは毎月上限いっぱいまで使われていたという。社長がパブの影響で海外へ出張したのを見送った後、夜逃げというかたちで社員たちは解散。その後の結末は誰も知らない。
まとめ
仕事において、公私混同ほど怖いものはないだろう。小さい会社であればあるほど、社長のワンマンであることも多く、たがが外れやすいようだ。たがが外れてしまったら、ワンマンがあるがゆえに、今度はマヒ状態に陥りやすい。なかなか社員からは警告できそうにないが、誰かがブレーキにならないと傾いて倒れるのも時間の問題かもしれない。苦労して築いただろう自分の会社を、あっさりと台無しにはしてほしくはないものだ。