2017年2月、総合人材サービス、パーソルグループのインテリジェンスから企業の新規事業を支援する“eiicon”というオープンイノベーションプラットフォームがリリースされた。創設者である中村は、企業の持つ技術が世間に認知されていない現状がビジネスにおける機会損失になっていると感じる。そこで、企業が相互に持つ技術をもっと気軽に取り入れられる場を創り出せないものかと考え始めた。 「入社して3年目から中途採用の法人営業をしていました。担当業界はIT・インターネット。この業界で仕事をしていると複数の企業が参加するイベントに呼ばれることがあって。そこで企業同士が『一緒に新しいサービスをつくろうよ』といった会話で盛り上がっている光景を多々見てきました。一方で、私の親戚が鋳造品をつくる中小企業の経営者で、都内の企業との商談に片道7時間程度かかる様子を目の当たりにしていたんです。その光景を見ていて、もう少し業界にとらわれることなく、お互いの持っている技術をよく知りあえる機会を作ることはできないかと思うようになりました」 企業が持つ互いの技術を利用することで、新規事業の立ち上げを容易に生み出せる環境をつくりたいと考えるようになった。世界に目を向けてみると個人の投資家が新規事業に投資できるプラットフォームがある。ただ、日本にはまだ一般的に認知されているサービスがない。だからこそ、企業は好反応を示す。 「パーソルグループの新規事業プログラム“0to1”の第一回目が開かれることになって。 その時、まだ構想段階だった“eiicon”の立ち上げに本格的に取り組もうと思い、どれぐらいのニーズがあるのか企業へ直接訪問してみることにしました。その頃はもう、公私ともにとにかく慌ただしい日々。どうにも都合がつかない時は、企業に許可をいただいた上でまだ幼い息子を抱っこして訪問したことも(笑)。でもみなさん『いいよー』と快諾くださる方ばかりで。おかげで、予定よりも多くの企業にヒアリングすることができました。その上で、事前に企業の興味・関心を知り、認知度を高めるために“eiicon lab”というオウンドメディアをリリース。すると想像以上の反応で、600社以上の企業が“事前登録“という名目で、”eiicon”に予約登録してくださいました」
彼女は現在一児の母。新規事業の立ち上げを行ないながらも子育てをしていたのだ。どうすれば両立できるのか聞いてみると、自分の立ち位置の分析にあると言う。 「育休から復職して育児をしながら働く社員は、当たり前ですがフルタイムで働く社員と比べれば時間のハンデがあります。でも、短時間だからといって、社員も会社も「大変」と嘆いているだけでは何も変わりません。私は上司に勤務時間の相談をして現在7:00~16:00で働いています。そうすることで、朝は旦那に子どもを任せて、夕方からは私がみるという役割分担が成立。仕事と家事を両立するために旦那や親と相談して、今ある環境に甘えられるところは甘える。そして自分でできるところは自分でやる。自分の置かれている立ち位置を分析することで、両立している感覚なく、両立している状態になると思います」 家族の協力もありながら、新規事業を立ち上げることに奮闘し続けた。ただ、ここで既存のレールに従って働くことに慣れてしまった自分との葛藤が始まる。 「私はDODAという20年以上の歴史をもつ転職サービスを取り扱って、今まで営業活動を行なってきました。社内では何度も表彰してもらい、成績を上げたことでマネジャーにも割と早く昇格をしました。営業での成績の上げ方は今思えば至ってシンプルで、分からないことは聞く。そして教えてもらったことを基に、いかに早くPDCAをまわし、自分のものにしていくか。これに尽きます。でも、今回新規事業を立ち上げるにあたって同じことをすると、いっこうに前に進みませんでした。原因は、『人に聞けば答えをもらえる』という、私の既存のレールでの戦い方にあるとなかなか気づけなかったからです。今回立ち上げる新規事業に関して誰も詳しい人はいません。アドバイスをもらってもなかなかカタチにならない、あの時がいちばん辛かったですね」
今までのやり方がまるで通用しない。色んなアドバイスをもらえるが、それが本当に正しいのか分からない。そこで完全に考え方を“1から100の考え”から“0から1の考え”に変えた。 「そこで責任範囲の持ち方を変えました。例えば、『A社に広告を発注してもいいですか?』と聞いた時点で、選択権は相手にまわり『発注していい』と言った人が責任を持つじゃないですか。でも、『○○の理由からA社に発注します』と宣言すれば自分に責任がくる。0から1を生み出すということは、スタートから全ての責任を背負うということなので、重みが全然違うんですよね。そこまで意識を変えれば、自ずと『こういう事業にします!』と経営者に提案するようになり、全てが主体的な行動に変わっていきました」 遂に2017年2月“eiicon“がリリースされた。将来このサービスをどうしていきたいのかと聞いたところ、明確な目標があった。 「ゆくゆくは雇用の創出に繋げたいと思っています。最近、父親の会社が新しい企業と出会い、一緒にビジネスをしていくことが決まりまして。64歳の父と79歳の提携先の経営者で『新しい市場を開拓するぞ!』って盛り上がっています(笑)。そうするとその新規事業を売り出す人材もゆくゆく必要になるだろうなと。つまり新規事業が生まれれば、雇用が生まれるということ。企業と企業の価値ある出会いで、イノベーションが生まれて、雇用が生まれ、イキイキと働く社員が増える。そんなことができるプラットフォームにしていきたいですね。 そして、“eiicon“は近々アジアに展開していこうと計画。現在も、インド、台湾、韓国、オランダなど様々な海外の企業からもご登録いただいていて、ご興味は少なからず持っていただけていると感じています。日本の地方中小企業には、認知度は低いけれど確かな技術を持った企業がたくさんある。そんな彼らとアジアにある海外ベンチャーの技術や能力が掛け合わさることによって、世界にインパクトを残せるような事業が立ち上げられるんじゃないかとて思っています。アジアから世界を席巻するような企業を生み出していくことが目標です」 取材中、彼女からはどんなに高い目標でも夢で終わらせることなく、本当にやってのけるんじゃないかという気迫を感じた。なぜなら自分の至らない部分を正確に分析でき、問題を解決する力を持っているから。まず “eiicon“の立ち上げは成功させた。でも、本番はこれから。持ち前の分析能力と問題解決能力で、日本を代表するプラットフォームにさせる日は近い。