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『ニューズウィーク日本版』フォトディレクターの仕事~後編~

「写真だからこそ伝えられる真実がある」
『ニューズウィーク日本版』のフォトディレクターを務める片岡英子。彼女が企画から立ち上げた連載コーナー「ピクチャー・パワー」は、企画から立ち上げまでに約7年かかった。

『ニューズウィーク日本版』フォトディレクターの仕事~前編~

「単発では何回かやらせてもらってたんです。外国のカメラマンをアサインし、ビルマや香港などに派遣してフォトストーリーとして組み上げていました。結果、7年後に当時編集長になったばかりの竹田(※)さんが連載へと昇華させてくれたんですけど、今考えると企画書が甘かったんですよね。ジャッジする上層部の人、みんながみんな写真に詳しいとは限らない。そこに対して、“テキストでできない、写真だから伝えられること”をきちんと説明していれば、もしかしたら3年、いや3か月だったかもしれない。そこは自分のプレゼンの甘さが原因です」

そもそもなぜ、「ピクチャー・パワー」を立ち上げようと思ったのか。そこにはやはり写真への深い思いがあった。

「やっぱり“写真の力”でストーリーを伝えたいという思いが一番強かったですね。現在は毎回大体4ページから6ページを使っています。たとえば難民や移民がテーマでも、そこにたどり着くまでの行程をたどるルポルタージュから名画に移民を当てはめて問題提起したアート作品まであります。

戦争や紛争について語るにも、戦場の兵士たちの「日常」や、戦争で使われる兵器を売るマーケットもあります。無人機攻撃で犠牲になる市民もあれば、その製造場所もあります。

世界のニュースを多角的な視点を使って、写真を何枚も連ねて伝えていく。文章とはとはまた違った影響力があるんじゃないかと。写真だからこそ伝えられること、訴えられることがある。その力にフィーチャーしたのが「ピクチャー・パワー」です」

新たな試みは、新たな読者も生んでいる。

「コサック民族の少年たちが戦闘訓練を受けているというフォトストーリーを掲載したときには、参加者たちが「自分と同年代であることに衝撃を受けた」という中学生から投書をいただきました。「自分たちは学校で戦争を二度と繰り返さないために学ぶけど、クリミアの少年たちは戦闘訓練を通して戦争を学ぶという大きな違いがある。同じ年頃の少年が戦闘術など学ばずに済む環境になることを願います」とありました。まず飛び込んでくるコサックの少年の写真から、遠い国の話でも他人事ではなく「自分ゴト」のように意識し、ご自身の視点から読み解いていただいた好例だと思います」

一方で写真は一瞬で多くの情報を伝え、影響力も大きい。ロイター、ゲッティ、共同通信などをはじめとした各国の通信社や、フリーの写真家から毎日無数に上がってくる写真の中には、時に論争を巻き起こすような衝撃的な写真もある。それを公開するか、しないか、そのジャッジはどのようにして下されるのだろうか?

「端的に言うと、社会に今伝えるべきことが写っているか、写っていないか、それが判断基準になります。伝えることの公益性が極めて高く、人々の意識を喚起させる写真であることが重要です。一方で、センセーショナリズムやのぞき趣味などに陥ってはいけない。さまざまな観点から熟慮した上で、この写真は出すべきだという結論に至れば、受け手が衝撃的と考えるかも知れない写真でも掲載することがあります」

「この写真は掲載すべきなのか?」少しでもその疑問を感じたら、必ず編集部議論を交わす。時には論争を生むこともある。

「少し前ですけど、シリア難民の子供の遺体が海岸に打ち上げられていた写真がありました。それは編集部でも議論になりました。まず一番に“死者の尊厳が保たれているか”と“ご遺族の意志”という点を確認、そのうえで公益性を優先し、シリア難民に今何が起こっているかを伝えるためにこの写真を掲載しました。当時から、政治的、経済的、社会文化とか、そういう視点での報道はされていました。そして人道的にはどうなのか?紛争によって故郷を追われた末に異国の海で命尽きた子の痛ましい姿は、私たちが今知るべきシリア紛争の本質を物語っているではないか、ということでGOサインを出しました。本来あるべき子供の命、社会の希望、国の未来が紛争のために毎分毎秒失われている現実を、あの時伝えるべきだと考えたんです」

世界中のさまざま真実を写真から伝える。「ピクチャー・パワー」は連載から10年で一冊の本にまとめて出版された。写真は思い出や時間を記録するという他に、ストーリーを語る時に力を発揮する。それを共有していきたい、と言う。

「同じことでも視点を変えれば、やり方をかえれば、違う切り口になって、深みがでます。同じ被写体でも光の当たり方が変われば、影の落ち方も変わって、まったく違う印象を与えることもある。見る側が抱えるバックボーンによっても受けとめ方が変わることもあり、多様な意見を持ち寄って議論することもある。でもそれで良い。写真でしか伝えられないこと、表現できないことを読者の皆さんと共有することで、社会に新たな視点をもたらしていければいいなと思ってます。あとはやっぱり、ドキュメンタリーや、フォトジャーナリズム、フォトストーリーを撮っていらっしゃる写真家さんたちからここに出したいと思っていただけるような連載、また、これから写真の道に進まれる方々の目標にしてもらえるような場所になったら嬉しいです。自分にとって非常に高いハードルですけど、やるからにはそこを目指してやっていきたいですね」

この先も動き続ける世界のなかで、受け継がれていく写真、受け継がれていく文化、そして受け継がねばならない歴史と真実。写真という偽りのない視点で届けられるニュースから、私たちは決して、目をそむけてはいけない。

※竹田圭吾:ジャーナリスト。テレビ・コメンテイター。ラジオ・パーソナリティ。2001年から2010年まで『ニューズウィーク日本版』編集長を務めた。2016年、51歳の時に、膵臓癌のため東京都内の病院で死去。