『日本の女を歌う』をテーマにリアルな日常を切り取る注目のシンガーソングライター・NakamuraEmi。特に女性のファンが多いという彼女の曲は、誰もが抱える迷いやジレンマ、内面の弱さを抉り出し、それを肯定しつつも立ち上がるための勇気を与えてくれる。彼女自身、10以上もの職種を経験し、たくさんの寄り道をして、いろんな人たちに出会ってきた。だからこそ歌える唄がある。
小さなころからの夢を捨て、音楽の道を選んだ彼女。ある時は道をそれ、また戻り、そんな迷いを幾度か繰り返しながら歩み続け、ちょうど30歳を迎えるころ、ついに音楽事務所から声がかかる。
前回記事:「幼少からの夢を捨てて進んだ音楽の道、己の道を探し続けた20代」「私がずっと歌わせてもらってたバーのスタッフが、今のマネージャーを紹介してくれたんです。でも正直飛び込むのが怖くて。その頃も音楽を続けてはいたけど、プロになろうとまではもう考えてなくて。そろそろ結婚しようかと思ってた人もいたし…って、私“結婚”てワード多すぎますよね(笑)。スタジオのアルバイトも辞めて社員としてちゃんと働いていたので、また貧乏になるのはキツイなとか。なんていうか、音楽に夢を見ることはなくなってたんです。でもそんな時に同じ事務所の竹原ピストルさんのライブに連れてってもらって、号泣。こんな人間くさい音楽があるんだ、こういう人をマネジメントしてる事務所ならやってみたい!って、あの時竹原さんのライブを見てなかったら今の私はいなかったかも」
「いろんな人に導かれてここまで来れた」という彼女。目をかけてくれたマネージャーの他に、もうひとり恩師がいる。現在もプロデューサーとして名を連ねるカワムラヒロシ氏だ。
「デビュー前、私がHIPHOPに目覚めたあたりから、曲作りを見てくれるようになったのがカワムラさんだったんです。ほかにも、スケジュール調整やお金周りとか、私の苦手なことをすべてやってくれて。本当に色々とお世話になってて、私の師匠であり、兄のような存在。叱られたことも一度や二度じゃない(笑)。特に覚えているのは一緒に地方に行ったときのこと。まだ仕事と掛け持ちで音楽やってる時で、ライブ中『CD持ってきたので、良かったら帰りに見てってくださーい』みたいな軽いノリでMCをやったんです。そしたらカワムラさんに『お前は仕事と掛け持ちだからいいかもしれないけど、俺は電車賃稼がないと帰れないんだよ。俺だったらもっと“買ってもらうため”のMCをする。所詮お前は甘ちゃん、プロじゃない』ってすごい怒られて。確かにそうだなって。女の子で、そこそこ歌がうまくて、男の子が集まってくればなんとなくできちゃう世界であることは事実で。一所懸命音楽をやってる人たちにとったら、私みたいにふわーっとやってるのが一番腹が立つはず。普通なら一緒にやるのもイヤだと思うんですが、カワムラさんはわたしに気持ちをぶつけて、きちんと怒ってくれる。今でも私の甘い部分が見え隠れすると『お前さあ!』って叱ってくれるアツい方です(笑)」
メジャーデビューした今でもほかのミュージシャンと自分をくらべ、その甘さにへこむことがあるという。しかし、だからこそ譲れないこともある。
「自主製作でCDを作っていた時からモノづくりにはこだわっていて、今でもそれは変わらないし、変えたくないことのひとつ。特典のグッズひとつとっても、ロゴの書体は?色は?形は?って、本当に一からすべてスタッフと相談しながら作ってます。普通はすべてレコード会社にお任せするものだし、誰かにお願いしてもきっとステキなものにはなるし、おまかせするときもいつかは来ると思う。それまでにたくさんディスカッションして、私の想いをみんなに伝えておくことが大事かなって。“私らしさ”を消さないためにも」
「無理をしない、自分の気持ちにウソをつかない」それは誰でもない、彼女自身が音楽を楽しむためにいちばん大事なことなのかもしれない。そして、その想いはきっとこれからも変わらない。
「いずれは結婚もしたいし、子どもも欲しいです。『NIPPONNO ONNAWO UTAU』って掲げてるからこそ経験したい。そしていつか、すごくあたたかい恋愛ソングも歌えるようになりたい。迷いやジレンマだけじゃなく、いろんな唄を歌えるように、つらくても笑顔でがんばる人たちの応援ができるように、もっとたくさんの経験を積んでいきたいです」
彼女にとって、音楽はたったひとつしかない自分の道だけど、同じように結婚や恋愛も大切な道。だからこそ女性の共感を強く得られるのだろう。自分にとっての道はなにか?正しい道でなくてもいい、険しい道でもいい、安全な道でもいい。迷ったら、少し立ち止まって、軽く深呼吸して、また前に進めばいい。何度でもまた登って前に進めばいい。