高校卒業後、19歳の時にデビュー。2014年に公開された映画『愛の渦』では、“誰よりも性欲の強い女子大生”役をオーディションで勝ち取り、一糸まとわぬ姿で大胆な濡れ場に挑んだ。着衣時間123分中18分という過激な作品での彼女の演技は公開後大きな話題を呼び、その後ドラマ・映画とひっぱりだこになる。今年に入ってからも連続ドラマ『お迎えデス。』、映画『オオカミ少女と黒王子』など出演作が続く、今旬な彼女の女優業にせまる。
最新出演作となる映画『二重生活』が映画単独初主演という彼女。今作でも『愛の渦』に負けず劣らず濃厚なラブシーンに挑んでいる。見せ場でもあり、繊細なシーンだけに本番前はやはり緊張するのだろうか。
「緊張はしませんが、ラブシーンは段取りがとにかく大変。見えちゃいけないところを意識したり、キスシーンひとつとっても、こっちに腕を回したら顔が見えなくなるからダメだなとか。気を配るところが多すぎて、ロマンチックなムードなんて皆無です。すみません、夢のない話で(笑)」
今回彼女が演じる"珠"は哲学を専攻する女子大院生。当初、“哲学”というあまり聞きなれないキーワードに戸惑いもあったが、役作りには意外なものが参考になったという。
「実際に哲学を専攻している学生さんのツイッター見つけてチェックしてました。どんなところでご飯を食べるのか、週に何回飲みに行くのか、ツイッターだと気負いなくつぶやいているので、より素に近い顔をのぞけるんです。フォローして1日の動向を追って、彼女たちの生活をのぞいてました。尾行こそしなかったけど、ちょっとしたストーキングですよね(笑)」
うつむきがちで内公的、自分をあまり出さない珠に対し、取材陣の目をまっすぐと見つめながら、物おじせずに言葉を返す彼女。その姿には風格すら感じられる。「私と珠は似てない」と語るが、飾らないその姿は珠のそれともかぶって見える。
「今回の映画は監督もカメラマンもドキュメンタリー出身の方で、撮影前の段取りは基本ナシ。ぶっつけ本番でやってみましょうという感じなので、役に入り込む切り替えスイッチがなくて、結果、地の自分をだいぶ持ち込んでました。いつもはオンオフつけて役を引きずらないようにするんだけど、今回はそれができなくて、常にオンのような、常にオフのような。撮影中はずっと頭にもやがかかっている感じで、自分なのか、珠なのかよくわからない状況が続いてました。“自分が嫌い”という珠の心が流れ込んでくるのもちょっと辛かったですね」
珠と自分が混ざりすぎるあまり、その苦しみまで共有してしまったという。若干23歳という若さながら実力派女優の呼び声も高い彼女、だからこそ演じることの苦しみや壁に当たることも多いのだろうか。
「もう常に壁だらけです。乗り越えられたかどうかすらわからなくて、何年か後にふとしたタイミングで『ああ、クリアできたのかな』って気づく。課題は常にあって、できない自分が悔しくて泣くこともありますし。でも基本的にすごく負けず嫌いで、熱血指導みたいなのも好きなタイプ。へこたれてる暇はありません」
秘密がない人生なんてないように、壁がない人生もない。他人の秘密にのめり込む珠とは反対に「人に興味がないんです」と言うが、「今回の仕事で得られたものは?」と聞くとこんな返事が返ってきた。
「またこの人と仕事したいなと感じることは、私が仕事を続けるうえで大きなモチベーションなんです。何年か後に再会したときにがっかりされないように、もっともっと成長しなきゃって。今回の映画での岸監督との出会いはそう思わせてくれる貴重なものでした」
またいつか一緒に仕事をしたい、その思いが彼女の女優活動を強く支えている。次に出会う時にはきっと、ひとまわりもふたまわりも大きくなった“門脇麦”を魅せてくれるに違いない。
プロフィール[Profile] 門脇麦 [かどわき むぎ]
1992年生まれ、東京都出身。2011年、ドラマでデビュー。2014年の映画『愛の渦』では体当たりの演技に挑戦し話題に。その後もNHK朝の連続テレビ小説『まれ』(2015年)など、多数の話題作に出演。Netflixオリジナルドラマ『火花』にも出演中。 今後は、初挑戦のミュージカル『わたしは真悟』を控えている。
映画『二重生活』
2016年6月25日(土)公開
■監督・脚本:岸善幸
原作:小池真理子『二重生活』(KADOKAWA / 角川文庫)
■出演:門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリー・フランキー、ほか ■上映時間:126分 ■配給:スターサンズ
直木賞作家・小池真理子の同名原作を映画化。『愛の渦』の門脇麦を主演に迎え、既婚男性の尾行にハマっていく主人公を描く。ヒロインを取り巻く男性たちに『鈴木先生』シリーズの長谷川博己、リリー・フランキー、菅田将暉ら豪華キャストが熱演。禁断の人間模様に引き込まれる心理エンタテインメント。
<STORY>
大学院で哲学を学ぶ25歳の珠(門脇麦)は、担当の篠原教授(リリー・フランキー)に修士論文の題材として“哲学的尾行”を提示される。戸惑いながらも近隣に住む石坂(長谷川博己)にターゲットを定め、朝から晩までの尾行を始めるが、ある日とんでもない秘密を目撃してしまう。
(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ